自分らしく生きるための任意後見のすすめ

私(弁護士阿部広美)は現在,8名の方々の法定の成年後見人や保佐人を務めていますが,後見等の事務を行う中でいつも思うのは,裁判所から選任された後見人の場合,ご本人(被後見人等)の資産を守ることが重視され,ご本人らしい生き方を重視した活動ができないということです。

例えば,後見が開始されるまでは,仲の良いご家族を食事に連れて行ったり,お孫さんに小遣いをあげることを楽しみにしておられたような方であっても,法定の後見人の場合,ご本人に代わってご本人の資産を守らなければなりませんので,ご親族へのそのような援助は控えなければなりません。

ですが,十分な収入がある被後見人の場合など,親族への援助を一定程度行ったとしても生活に支障はないにもかかわらず,後見人がそのような支出を認めないのは,ご本人のためではなく,推定相続人(ご本人の他界後に相続人となられる親族)のためなのではないかと思うことがあります。

このようなことが起こるのは,法定後見制度は,ご本人が認知症などで判断力が低下した状態で,ご本人とは面識もない専門家(弁護士や司法書士)を裁判所が選任するため,ご本人のそれまでの生活状況や人間関係などが分からないからに他なりません。

それなら,ご本人のことを最も良く理解している親族が後見人になれば良いのではないかと思われるかも知れませんが,たとえ親族が後見人になったとしても,被後見人の資産の使途は裁判所に報告しなければなりませんので,自由に被後見人の資産を使うことはできません。

この点,ご本人が認知症等になり,判断力が低下する前に,信頼できる人(親族でも弁護士等の専門家でも構いません)に,ご本人の判断力が低下した場合には後見人となり,予め依頼した方法で後見事務を行うことを頼んでおくことができれば,ご本人の判断力が低下した場合でも,ご本人らしい生き方を尊重した後見事務を行うことができます。

このように,判断力が低下する前に,後見人を選び,後見人としてやって欲しいことなどを依頼しておくことを「任意後見契約」と言います。任意後見契約は,公正証書によって行わなければなりませんので,事前に,契約内容をしっかりと確認しておくことが必要です。

当事務所でも任意後見契約公正証書の作成のアドバイスや,実際に任意後見人をお引き受けした事案がありますが,公正証書の作成までに,ご本人の生活状況や,判断力が低下した後の生活についての様々な希望,自らの財産管理についての希望などを詳細に聴き取り,ご本人に最後まで自分らしく生きていただくためのサポートを行っています。

たとえ判断力が低下したり,寝たきりになったとしても,自分らしく生きるために,「任意後見」を検討してみては如何でしょうか?