熊本教員公務災害認定訴訟,福岡高裁で逆転勝訴!

1 事案の概要

熊本県の小学校の教諭だった原告(当時44歳)が,平成23年12月14日に脳幹部出血を発症して,四肢麻痺,発語不能,聴力なしで全介助を要する重篤な後遺障害を負いました。本件発症は精神的肉体的に過重な負荷の公務によるものであるとして公務災害認定請求を行ったが公務外認定処分を受けたため,審査請求等を経て,本件処分の取消しを求めて平成29年7月31日に熊本地裁に提訴しました。

2 原告の勤務実態

本件発症当時,本件小学校は教育委員会から学力向上・充実に関する事業のモデル校・推進校に指定されており,原告は研究主任として2年間にわたってその業務の中心的役割を担っていました。原告は学級担任こそ担当していませんでした,算数TTと部活動に加えて,この研究主任としての業務は非常に負担の重いものであり,校内勤務時間で業務を終えられずに,恒常的に自宅持ち帰り作業を行っていました。

3 熊本地裁における原告の主張と判決

原告は,校内勤務時間については校長作成の調査票,警備記録,原告使用のノートパソコンの起動・終了ログから出勤・退勤時間を判断し,自宅作業時間についてはノートパソコンの起動・終了ログ及び文書ファイルの作成・更新ログから判断すべきであるとし,本件発症前1か月間における時間外勤務時間は152時間27分(このうち自宅作業時間は93時間13分)になると主張しました。公務の質的過重性についても,本件発症前1か月間は日常業務に加えて研究紀要の作成等の業務が集中した時期である旨を指摘しました。

令和2年1月27日,熊本地裁判決は原告の請求を棄却しました。その理由として,発症前1か月間の時間外勤務時間は89時間54分(うち自宅作業時間は39時間55分)にとどまり,公務の過重性についても,原告は18年の勤務経験を有する教員であって学級担任を務めておらず,個々の業務は過重でなかったとしました。

5 控訴審(福岡高裁)における審理と判決

控訴審では,出退勤時刻や昼休みの時間の主張を修正したほか,発症前2か月目における自宅作業時間(81時間16分)の主張も追加しました。質的過重性として作業が同時並行的に重なって集中していたことも強調しました。
令和2年7月29日,福岡高裁における第1回口頭弁論が開かれましたが,原告側申請証人はいずれも却下され,即日結審しました。
同年9月25日,福岡高裁は,原判決を取り消し,本件処分を取り消す旨の逆転勝訴の判決を言い渡しました。
時間外勤務時間の認定自体は原審とほぼ同じであり,発症前1か月間については93時間01分(うち自宅作業時間は41時間55分)と認定しました。しかし,発症前2週間についていずれも週25時間を超えていること,発症前6か月目の校内時間外勤務時間がほぼ80時間となっていることを指摘し,原告が長期間にわたり恒常的に長時間の時間外勤務をしていたと認定しました。
この判決は上告されずに確定しました。

6 福岡高裁判決の評価

今回の判決は,公務の過重性の判断において,単に時間外労働時間の長さだけを捉えて形式的に判断するのではなく,原告の勤務実態を重視して実質的に判断をしたという点で,小学校教諭であった原告の置かれていた過酷な勤務状況を正面から受け止めたものといえます。
教員の命と健康を守るためにも,自宅持ち帰り作業の問題を解決することが極めて重要だと考えます。