労働問題解決のための手段

一口に労働問題と言っても,解雇や懲戒処分の問題,賃金・残業代や退職金が支払われないという問題,セクハラ・パワハラなどの職場におけるハラスメント問題,長時間労働などで病気になったり,危険な業務で死傷に至る労災問題など,いろいろな悩みや苦しみがあると思います。
これらの労働問題に対しては,解決のための手段がいくつも用意されていますが,それぞれの手段の長短を理解して適切な手段を選択していくことは,必ずしも容易なことではありません。

行政による解決手段

  • 労働基準監督署による指導・是正勧告
  • 都道府県労働局(紛争調整委員会)によるあっせん等の手続
  • 労働委員会によるあっせんの手続
  • 審査請求・再審査請求(労災関係)

裁判所による解決手段

  • 仮処分(地位保全・賃金仮払い)の申立て
  • 仮差押えの申立て
  • 訴訟の提起
  • 労働審判の申立て
  • 少額訴訟の提起,民事調停の申立て

労働組合との連携

  • 労働組合への相談
  • 合同労働組合(ユニオン)への加入

各種給付制度の利用

  • 雇用保険の失業給付制度(仮給付の利用)
  • 労災保険の各種給付制度
  • 未払い賃金立替払い制度

当事務所における解決方針

当事務所では,労働者の権利を守り,実現するという立場から,一定の戦略を持って各種手続を選択し,場合によってはそれらを組み合わせて,ご依頼者様の希望に沿った解決を目指します。
具体的には,次のような流れで解決方針をご提案し,実行します。

ご相談時からの基本的な流れ

ご依頼者様からの事情聴取
初回のご相談時のポイントの1つは,問題の特定です。
例えば,解雇されたということで相談に来られた場合であっても,それが懲戒解雇なのか,合意退職なのかによって,その後の解決方針が大きく異なります。
また,使用者(雇い主)側が労働関係法令をよく分からずに労働者への対応を決定をしていると思われるケースも多く,その場合には使用者の決定がどのような根拠に基づいているかによって,その後の対応方針も異なってきます。
当事務所では,適切に問題の所在を明らかにし,それに対応した解決の方針をご提案します。
早期の証拠収集
労働問題では,予想される争点に関する証拠がどの程度確保できるかによって,その後の解決方針が大きく異なってきます。
例えば,雇用契約書(労働条件通知書),解雇通知書,解雇理由証明書,就業規則,賃金規程,給与明細書,タイムカード,事案によっては診断書や医療記録など,書面で存在するものは早期に確保する必要があります。
当事務所では,ご依頼者様で確保できるものとそうでないものとを早期に判断し,必要があれば使用者(雇い主)が保有する証拠書類の確保のために裁判所に対して証拠保全手続を申し立てる方法など,適切な証拠収集手段をご提案します。
解決の見通しに関する法的判断
労働問題の分野では,法令で明記された条文だけでは解決できない事例が多くあり,そういった事例で集積されてきた裁判例がとても重要な判断資料となっています。また,過去に例のない事例については,類似の事案等を参照しながら,チャレンジングな課題に取り組んでいく姿勢が求められます。
当事務所では,問題の所在や得られる証拠資料等を踏まえて,解決の見通しを示し,それを実現するための適切な手段をご提案します。
交渉とその後の手続選択
多くの事案では,使用者(雇い主)側と解決に向けた交渉を行うところから始めます。
しかし,交渉が長く続くと,それだけ依頼者様にとって不利益な状況も長く続くことになります。とりわけ解雇を争う事案では,賃金の払われない期間が長くなり,職場復帰も遅れることになります。
当事務所では,漫然と交渉を続けることはせず,交渉の中で話し合いによる解決の可否を早期に判断し,話し合いによる解決が困難な場合には次の手続を取ることをお勧めしています。
その後の手続の中でさらに話し合いを行うことで,早期解決に至ることも多く経験しています。

手続選択のポイント

当事務所では,各手続の特徴を踏まえた上で,次のような観点から,ご依頼を受けた労働問題を最も適切に解決できる手続をご提案いたします。

  1. ご依頼者様の希望
    早期の解決を希望し,費用もあまりかけたくないという場合は,労働審判申立てや仮処分申立てが適している場合が多いと思われます。
    時間や費用をかけても未払残業代等の満額を回収したいという場合は,訴訟の提起が適しています。
  2. 使用者(雇い主)側の対応
    話し合いによる解決が可能な場合には,労働審判申立て(場合によっては仮処分申立て)が適している場合があります。
    話し合いによる解決が困難な場合には,仮処分申立てと訴訟の提起の両方を同時に行うなどの方法があります。
  3. 事案の性質と証拠資料の内容
    事案の性質からみて結論が明白で証拠資料も充実している場合には,労働審判申立てや仮処分申立てなどが適している場合が多いと思われます。
    事案が複雑かつ困難な場合には,訴訟の提起が適しています(話し合いの見込みがあれば労働審判申立てもありえます)。

労働相談Q&A

よくある労働相談の事案について対処の方法等を考えてみます。

懲戒解雇

「居眠りをしていた」,「同僚とトラブルを起こした」との理由で,会社から懲戒解雇されました。どうしたらよいでしょうか。

対処の方法

解雇は,使用者(雇い主)が自由に行えるものではありません。その解雇が,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,無効となります(労働契約法16条)。
そこで,解雇がなされた場合には,その解雇は無効であると争うことが考えられます。解雇を争う場合には次の点に注意をしましょう。

  1. 事案の種類を区別しましょう。
    解雇なのか,退職強要による合意解約なのかなど,問題を特定します。
  2. 解雇の理由を特定しましょう。
    使用者に対して解雇理由証明書の交付を求めます(労基法22条)。
    使用者に対して解雇の基礎となる具体的事実(日時,場所,行為)の説明を求めます。その後の交渉や訴訟において,当初と異なる解雇理由を主張される場合がありますので,あらかじめ想定しておきます。
  3. 退職を前提とした行動を取らず,就労の意思を明らかにしておきましょう。
    解雇の撤回を求め,就労の意思がある旨を使用者に通知します。
    退職を前提とした行動は,合意解約の承諾と評価される場合がありますので注意が必要です。退職金請求などはしないでおきます。
    解雇予告手当や退職金が一方的に振り込まれた場合は返還するか,保管の上で今後発生する賃金に順次充当する旨を通知しておきます。
    離職票の受領と健康保険証の返却は問題ありません。
  4. 解雇後の生計に対する手立てを確保しましょう。
    雇用保険の仮給付(条件付給付)制度の利用を検討します。これは解雇を争いながら失業保険給付を受けることができる制度です。ただし,解雇無効を勝ち取った場合には後で返金しなければならないというデメリットもあるので注意が必要です。
    一方的に振り込まれた退職金を賃金に充当する方法も考えられます。
    他社で就労する場合は注意が必要ですので,弁護士に相談しましょう。

解雇事案における手続選択のポイント

  1. 職場復帰型と金銭解決型
    職場復帰を目指すのであれば訴訟の提起,金銭解決でもよいと考えるのであれば労働審判申立てが適している場合が多いと思います。
  2. 迅速性,話し合いを基本とするのであれば労働審判申立てが適しています。
  3. 完全に白黒を付けるのであれば仮処分申立てと訴訟の提起を同時に行う方法が適しています。
  4. 簡易・迅速・無料を希望する場合には,労働局のあっせん手続が考えられます。
  5. 合同労働組合(ユニオン)に加入し,労働組合に団体交渉をしてもらう方法も考えられます。

残業代の未払い

課長として1か月に約80時間の残業をしましたが,会社は,課長手当が5万円付いているので残業代はないと言って残業代を支払ってくれません。仕方がないのでしょうか。

対処の方法

このように残業代を定額の手当として支払う方法のことを固定残業代制度と呼んでいます。手当ではなく基本給の中に残業代を含むとする場合もあります。
固定残業代制度においては,①その手当等が残業代の支払いと言えるか,②仮に残業代の支払いと言えるとしてもその定額を超えた部分の残業代も支払われているかをチェックし,残業代の未払いがある場合には使用者(雇い主)に請求することができます(最判昭和63年7月14日,最判平成6年6月13日,最判平成24年3月8日)。

  1. 残業代を計算するための証拠を確保しましょう。
    雇用契約書(労働条件通知書),給与明細書,タイムカード,シフト表,作業日報,就業規則,賃金規程などを確保しましょう。
    なお,まったく資料がない場合でもある程度の計算は可能ですので,諦めることはありません。必要があれば勤務先に保管されている資料を「証拠保全」という手続で確保できる場合もあります。
  2. 残業代を計算しましょう。
    タイムカード等から出勤時刻,休憩時間,退勤時刻等を確認し,残業時間を算出します。
    また,雇用契約書や給与明細書,就業規則,賃金規程等から,残業代の基礎となる1時間あたりの賃金を算出します。
    こうした残業時間と基礎賃金から残業代を計算することになりますが,正しく計算するためには法令の知識が必要ですので,注意してください。
  3. 残業代の未払いの有無を検討しましょう。
    残業代が計算できたら,その残業代がすべて支払われているかを給与明細書等でチェックします。
    支払われている手当が残業代の支払いといえるかどうかも合わせて検討します。
    この検討にも法令の知識が必要になります。
  4. 使用者(雇い主)への請求
    未払いの残業代があることが判明した場合には,使用者へ未払い残業代を請求することになります。

未払い賃金事案における手続選択のポイント

  1. 事案が複雑でなく,迅速性を重視するのであれば,労働審判申立てが適しています。
  2. 満額回収を目指すのであれば,訴訟の提起が適しています。
    ※付加金の請求も合わせて行うことを検討します(労基法114条)
  3. 請求額が少額の場合は,労働局のあっせんや少額訴訟の利用が考えられます。

労働災害

飲食店の店長として1か月に約100時間の残業をしたところ,脳血管疾患を発症して重い後遺障害が残りました。どのような補償を受けられるでしょうか。

対処の方法

このような事例の場合,考えられる手続として次の2つがあります。

  1. 労災保険給付の請求をする
    労働者が労務に従事したことによって負傷し,または病気になり,あるいは死亡した場合には,労働災害として労災保険給付を受けることができます。労災保険給付には療養補償給付,休業補償給付,障害補償給付,遺族補償給付などがあります。
    このような労災に該当するかどうかは,被災者の請求に基づき労働基準監督署が認定することになっています。具体的な認定基準は労災の態様に応じて定められており,上記事例の場合には「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」で判断されます。
    労災保険給付の請求は労働基準監督署に対して行います。
  2. 使用者(雇い主)に対して損害賠償請求をする
    使用者は,雇用契約上の信義則に基づいて,労働者の生命,身体,健康を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っており,その具体的内容として,労働時間や人員配置等について適正な労働条件を確保し,労働者の労働時間の軽減等の適切な措置をとるべき義務を負うと考えられています。
    そこで,長時間労働によって脳血管疾患を発症したことについて,使用者に安全配慮義務違反があるとして,使用者に対して損害賠償請求を行うことが考えられます。

労災事案における手続選択のポイント

労災事案においては,まずは労災保険給付の請求をすることを検討します。
労災の認定を受けた場合には,早期に一定の補償が受けられますし,使用者に対する損害賠償請求をするにあたって証拠収集等の負担を減らせる場合があるからです。
労働基準監督署から労災の認定を受けられなかった場合(不支給決定を受けた場合)でも,不服申立ての手続(審査請求,再審査請求)や労災認定を求める訴訟の提起を行うことができますので,諦めないようにしてください。

労働問題の弁護士費用

労働問題に関する当事務所の弁護士費用については,こちらをご覧ください。